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【BUCK-TICK】アルバム『No.0』全曲感想(後編)

それではBUCK-TICKの21枚目のアルバム、『No.0』の全曲感想、及び背景説明、さっそく、後半戦に参ります。

ブリューゲルにマグリット、稲垣足穂、ロートレアモンにピカソ。

何世紀にもまたがった芸術がその下敷きになっている、華麗なる作品群を、いっしょにのぞいていきましょう。

前編はこちら

『No.0』全曲感想(後編)

参考までに、公式の視聴トレーラーはこちらです。

では感想は後半7曲目から。

Ophelia

大変です、星野三部作、ラストにきて美メロのヒデ節炸裂です。

今の私はこの曲がいちばん好きです。泣かせのメロディにまんまと泣かされてます。

そしてそこに乗る言葉が美しい。

春は誘って 君は風に舞って
花はそよいで 手招いてうららかに

流れるようなメロディーに、四季の美しさ、そこに「君」の軽やかな美しさが重なります。

夏は夢夢 君は毒に酔って
極彩色 華やかな衣装で歌う

「夏は夢夢」。

「夏は夢夢」。

二度言いましたけど、この言葉だけで、かのシェイクスピアの「真夏の夜の夢」が想起されます。

夏の夜の夢・あらし (新潮文庫)

夏の夜の夢・あらし (新潮文庫)

かねてから櫻井さんは、夏の爆発的な動植物の繁栄に、そこをピークにした死の予兆を感じとる、すばらしい感性をお持ちですが、まさにそれをイメージさせるフレーズ。

毒、極彩色、盛りを迎え、滅び行くもの。

そもそもオフィーリアといえば、シェイクスピアの「ハムレット」の登場人物。

ハムレット (新潮文庫)

ハムレット (新潮文庫)

有名なのがミレーのこちらの絵。

オフィーリアは愛するハムレットが父を殺したことで、愛憎の狭間で狂気に陥り、小川に落ちて溺死したとされています。

必聴なのが、3分30秒からのここ。

ワルツのように舞い散る雪でお化粧しましょう きれいなままでずっと永遠のまま

ここ、ささやくようなバッキングボーカルが入っています。

感情のないウィスパーボイスが、狂気を感じさせる見事な演出。

星野さんといえば、今井さんと真逆で、デモのタイトルが星野A、星野B、などとずいぶんそっけないそうですが(笑)、つまり純度の高い状態でこの曲を受け取り、感じ取ったものをこの形につむぎあげた櫻井さんの構成力は人間国宝クラスです。

光の帝国

ライブ前の私の2位と3位を争う曲。

光の帝国というのは、ルネ・マグリットの絵から。

空は昼間なのに、建物は夜。その矛盾を矛盾のまま形にした絵です。

今井さんのお宅にはこの絵が飾ってあるのだとか。矛盾もそこに描いてしまえば存在する、ということに魅力を感じてるそうです。

ぼくたちは 加速する 疾れ(はしれ)

このまっすぐすぎる少年ジャンプ魂!

これが今井さんの今井詞。純度の高い、硬質な言葉が並びます。

余談ですが、私は櫻井さんがいう、BUCK-TICKをRPGにたとえる話が大好きです。

うずくまっている櫻井少年を、「ほら行くよ!」ってひっぱっていく今井少年。そして「あつしは まいくを てにいれた」!

今井さんのピュアな向こう見ずは今も健在です。

闇の螺旋で遊んでたのに
いつもそうなんだ青空が邪魔をする

ここもほんとに聴く度にうなります。

ここのところ、暗がりに秘めておけばいいものを、いたずらに白昼の元にさらす無粋な報道が多くてうんざりします。

どこもかしこも真っ昼間になってしまったら、みんな疲れてしまうのに。

そして声フェチによる声フェチのための必聴ポイント。

夜の徘徊者たち乗せて
飛ぶロケットはシューティングスター
サーチライトくぐり抜け
ゆこう月世界旅行へ

ここの、かすかにうわずった声の色気ったら!バックに1オクターブ低いコーラスが入ってるのも、得意技とはいえ、いつも私を悶絶させます。

そして2分29秒あたり、「ゆこう月世界旅行へ」のあとにかすかに入る嬌声に、何度聴いても鳥肌。

ノスタルジア -ヰタ メカニカリス-

久々のポエトリー・リーディング。Loopを思い出します。どこだ!こっちだ!

ヰタ・メカニカリスとは、稲垣足穂のヰタ・マキニカリスの引用。オマージュ?? 未読なので読んでみたいですが、昔読んだ稲垣足穂には霞を食わされているような気持ちになったので、きっとあんな感じなんだろうなあ。

歯車が回り、あちこちで機械が動き続ける工場のようなサウンドは、スチームパンクっていうんですか? それをバックに抑揚を殺して淡々と読む今井さん。

ヰタ・マキニカリス: 21世紀タルホスコープ (河出文庫)

ヰタ・マキニカリス: 21世紀タルホスコープ (河出文庫)

「ミシンと蝙蝠傘」とあるのは、稲垣足穂にも同名の小説があるようですが、

ミシンと蝙蝠傘 (1972年)

ミシンと蝙蝠傘 (1972年)

その元ネタはロートレアモン伯爵の「マルドロールの歌」という詩の中の表現です。

マルドロールの歌 (集英社文庫)

マルドロールの歌 (集英社文庫)

ミシンとコウモリ傘との、解剖台の上での偶然の出会いのように、彼は美しい。

という、ある青年の美しさを形容するフレーズです。奇跡的な符合の美、ってことかな。違うか。

こういうのをシュールレアリスムというんだと思いますが……ちょっと難しい。

えー、私これ、こないだ買って読んでる途中なんですが、……まだ「蝙蝠傘とミシン」が出て来ません。

一応気に入ったフレーズにはライン引きながら読んでるんですが(真面目)、たとえばこれです。

「好奇心は宇宙と同時に誕生したんだよ」

かっこいい!……でも残念ながら本作とは関係ありません。

IGNITER

IGNITERとはイグニッター、点火装置、の意味。ここではエンジンの点火装置ととっていいでしょう。イグニッション、という言葉なら馴染みのある人も多いはず。

この曲は、今井さんの創作意欲がノリにノっていた時期に、まさに「降りてきた」ものらしく、その勢いが作詞にも表れています。

天上太陽 中空我雷電 地上火天怒焔

「てんじょうたいよう ちゅうくうがらいでん ちじょうかてんどほむら」

これ、すごくないですか。漢詩か。

天の上には太陽が輝き、 中空には自分が雷電の中にあり、 地上は怒りの炎に満ちている。

この「雷電」は太平洋戦争で用いられた戦闘機の名前です。映画「風立ちぬ」の堀越二郎氏が、ゼロ戦の次に手がけた迎撃用戦闘機だそうです。

Wikiさんによれば、最高速度は時速600キロを越えます。はー!

話を曲に戻しますが、つまりこれは戦闘機乗りの歌。雷電に乗り込んだパイロットが無我夢中で宙を切り裂き飛んでいく、その真っ最中を切り取っています。

だから、イグニッター、点火装置というのはこの戦闘機のエンジン点火のことです。

この曲のメインボーカルは今井さん。ここでは最高性能の爆撃機に身をおさめた、若い戦闘機乗りです。

そしてその背景を支えるように、櫻井ボーカルが登場。

紅蓮 烈火 火焔 轟 轟 轟 (ぐれん れっか かえん ごう ごう ごう)

炎の光と熱と轟音につつまれた、極限状態。その中でひたすらに闘志だけ燃やしてまっしぐらに敵機に突き進む機体。

今井さんのこの切り取り方には、鳥肌が立ちます。

戦争を、外側から眺めるのではなく、その中の人として疑似体験し、それを音楽に昇華できるイマジネーション。すごいです。

BABEL


ブリューゲル「バベルの塔」

あっちゃんと今井さんが出会ったのって去年の「バベルの塔」展で合ってますかね?たまたま偶然にBUCK-TICKメンバーが集う上野…魔界か。

バベルの塔といえば説明するのもアレですが、旧約聖書に書かれた建造物です。天に届けと作られた、その傲慢さが神の怒りに触れ、言葉を通じないようにした、というエピソード。

さて、曲の冒頭はこうです。

暗黒宇宙 わたしは無である

「私は無である」!!!

曲の開始早々にこんな宣言をされるとは。

今宵は 天を貫く
お前のもとへ 我はBABEL

つまり、この曲の主役は、人間でも神でもありません。

まさかの「バベルの塔」。「我はBABEL」っていっちゃってるし。

いや、タイトルが「BABEL」ですからね、そのまんまっちゃそのまんまなんですが、でもあの逸話を聞いて「塔」そのものに思いを馳せる人って…あんまりいないんじゃないかな…。

というわけで、ここまで、あるときは猫、あるときは血塗れの狂女であり、またあるときは川に身を沈めた乙女であったボーカリストは、突然バベルの塔という絶対的存在に成り代わります。

「塔」ですからね。そりゃ「私は無である」よね。

その無機質な建造物から見た、神の存在と、人間の愚かしさ、果てなき欲望。

そんな櫻井敦司様、もといBABEL様に「震えて眠れ」と言われたら、文字通り震えて眠るしかないです。

ところで2分4秒くらいのところ、2番の直前で、左側で女性のつぶやきが入るんですけどあれなんていってるんでしょう?英語かな?

ゲルニカの夜

ゲルニカといえばピカソ。スペイン内戦中のゲルニカ爆撃を描いた絵画であり、のちに反戦のシンボルとなりました。

今井さんはこのデモ曲に「ゲルニカ」と名付けて櫻井さんに渡し、櫻井さんはその言葉から、幼少時に見た前橋空襲の映画「時計は生きていた」を連想し、この歌詞世界を広げたといいます。

な、なんて見事なクリエイティブのリレー。

個人的な感想になりますが、ここまで物語的でウェットな世界観づくりをしたのは、私の中では「FLAME」以来のように思います。古。

さっきはバベルの塔として重厚に歌い上げていた櫻井さんですが、ここでいきなりピュアで線の細い少年に返ります。いそがし!

兄と二人で映画館に行く少年。突然空が狂いだし、町が燃える。愛するものが消えていく。ふいに夢から覚めて母に会いたくなる。

私としては、冒頭の少年の

お菓子が欲しかったけど
一枚のガム半分つっこ

ママがそう いっしょだったら
膝の上がよかったな

でもう泣いちゃいました。

ずるい〜。櫻井少年が無邪気にガム半分つっこでママの膝の上に座りたがってるだけでもう泣かせる。(「半分つっこ」って方言ですよね?私は使ったことないので新鮮でした)

そして、少年が見ている世界が突然壊れだす。

許してください ねえ神様
なんでよ なんでよ お願いだよ

この、子供が必死に懇願する様子もたまりません。目の前の悲劇、圧倒的な現実を前に、いるかどうかもわからない神に救いを請うことしかできない子供。

壊れたマリオネットの描写も、淡々とした残酷さを感じます。

そして、「溢れて落ちていく君」に言う、ここがすごい。

ごめんよ 僕は雨降り

いつ聞いても、何気ないこの言葉が心に刺さります。

どうしようもない無力感がこもった「雨降り」という素朴な言葉。降りしきる雨のカーテンから僕は出られない。

そして、このむごい現実への無力感を背負ったまま言葉は大人の表現に変わります。

僕はどうだい どうすればいい
愛とか恋だとか歌ってる
君はどうだい どう思うかい
誰かが誰かを殺すよ

胸が苦しくなります。

さて、この詞が生まれた背景については、については、FC会報や雑誌で語られているのですが、こちらのブログの記事がとても参考になるのでご紹介します。

某有名音楽バンドとされてますが、まず間違いなくBUCK-TICK。そしてそれを伏せているところに売名行為とは無縁の誠実さを感じます。

ああライブが楽しみ。

胎内回帰

早くママに会いたいよ、といっていたゲルニカ少年を受け止めるのが、この「胎内回帰」。

回り続けるプロペラ音のような不穏な音。

愛しているよ 叫んでる
爆撃機の風が切り裂いた

力強い「愛している」のあとに、怖いくらいクリアに聞こえる「爆撃機」。

愛してます 囁いた
私は笑ってそう 飛び立つ

「爆撃機」とともに「飛び立つ」のは特攻隊の青年です。

「愛」を胸に、命を散らした若者たちへのレクイエムとして、櫻井さんはこの「胎内回帰」を送ったそうです。

最後は、母のもとへ帰れますようにと。

櫻井さんは「母」というモチーフを繰り返し用い、それを自虐的にいうこともありますが、この「母」は「絶対的愛情」の一つの形といっていいのではないでしょうか。

すべてを許し、受け入れてくれる存在。

体の中に命を宿し、無条件にその命を育む母体。

人が絶対的に守られ、安らげる場所は、もしかしたらそこにしかないのかもしれません。

だからこそ、最後はそこに帰してあげたいと願う気持ち。

墜落音にも似た音の中で「笑って」「わたしは行く」という清冽な魂を思うと、痛ましくてなりません。

でも私の中で、この曲は力強さに満ちていて、BUCK-TICKの曲の中でもかなり新鮮な印象を持っています。

悲しいだけじゃない。悼むだけじゃない。すべてを包みこむたくましい腕のような力強い愛です。それは父性ともいえるかもしれません。

そしてアルバムは1曲目「零式13型『愛』」に戻り、魂は新しく生まれ変わるのです。




以上、とても感傷的になりましたが、今のところの感想は以上です。

知識がなさすぎて、薄っぺらいのは反省してます。教養、もっとつけたい!!

でも知識がなくても、心に直接響かせてくれるのが音楽のいいところです。

そしてライブでは、ステージに作り上げられた世界観と、メンバーのパフォーマンスがそれを何倍にも膨らませて、その中にやさしく閉じ込めてくれるので……たまらないんですよねぇ!!

すでにそのライブを味わった方々に敬意を表するとともに、私はひたすら自分の体験を楽しみにします。

拙い感想文でしたが、ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。

それではこれにて!

No.0 (通常盤)

No.0 (通常盤)